向正面は訪問着


世界一短いかもしれない。と思うのは、相撲の取組(対戦)時間。早ければ、一瞬。普通でも数十秒、1分を越えれば長い試合という短さ。こんな短い格闘技があるだろうか?日本人には日常的な、見慣れたスポーツ?でも、改めて観察すると、その特異性はかなり特殊だと思います。一瞬できまる勝負ですから、その勝負に至るまでの精神統一は大変なものがあります。力士ひとりひとりに、その精神統一のやり方、ルーチンワークに特徴があって、面白い。単に、6時終了の放送時間にあわせるための時間調整ばかりではないのであります。

夕食のときに、その日の取組の録画を見るのが日課になっている今日このごろです。毎日見ていると、気がつくことですが、毎日、会場で観戦していらっしゃる方がおられます。着物をお召しのお姉様。いらっしゃる席は毎日違うし、お召しのお着物も毎日違う。薄い色もあれば、濃い色もあり、カッコいい黒羽織に無地の着物(たぶん)のときもあれば、訪問着のときもあります。

相撲のテレビ中継は、行事が前を向く方向をメインに撮していますが、その方向が向こう正面です。観戦する方がテレビにばっちり出る場所です。前述の毎日来られるお姉様、向こう正面のときは、訪問着です。たまたまではなく、やはり意識をされて訪問着になさった筈です。その使い分け、心意気、いいですね。歌舞伎でいうと、新春歌舞伎や襲名のときに盛装でいくというのと似ています。

特に、ドレスコードが指定されているわけではないけれど、ご自身の思い入れで、格を選ぶというのは正しい着方だと思います。周りの人がどんなものを着ていようが関係ありません。着飾ったからといって、その方を非難するような行為はいけません。そういうことをする人を着物警察というでしょうか?あれ、話が外れましたが、週末に向けて盛り上がる大相撲。観戦者の着物も楽しみです。九州場所が終われば、師走のあわただしさがやってきます。写真は、来年の干支の染め色紙(日展特別会員・井隼慶人先生原画)です。

グレーゾーンの権化

ゆるキャラなのか、キモキャラなのか、オバケみたいのなのが、いっぱい出てきて、ゆるキャラ企画も煮詰まり感があります。鬼太郎やアンパンマンなど、妖怪やら妖精が好きなのかな?日本人は、、。なにしろ、八百万信仰があります。そこらじゅうに神様がいて、いい神様も悪い神様もうじゃうじゃいらっしゃる。

悪い神様を「魔」というのでしょうか?わかりませんが、小さな子供の着物は、身幅が小さく、身頃は背中で縫い合わせなくても作れるので、背の縫い合わせがありません、そこに間(魔)がさすといって、背守りをつけました。大人の着物も、背に紋を入れます。元々は、そんな魔除けの意味もあったのかもしれません。現代では、紋の有無や数が問題になる事はしばしばございます。

第一礼装たる黒留袖や、喪服は五ツの日向(ひなた)紋。これが揺るぐことはありません。準礼装である訪問着や付下には一ツ紋をいれますが、五ツ紋を入れる事はありません。が、一ツ紋でも、日向紋にするのか、陰紋にするのか、抜き紋にするのか、刺繍紋にするのかは、用途やお好みで比較的自由。

京濱スタンダードでは準礼装の訪問着、付下、色無地の紋は陰の一ツ抜き紋です。準礼装は、「準」なので、日向紋でなく、陰紋。刺繍より染め抜きのほうが格上という考え方に基づいております。

ときどき、問題になるのが、色留袖の三ツ紋です。三ツ紋は、背と両袖につけます。色留袖は、黒留袖と同格の第一礼装なので、基本は染め抜き日向の五ツ紋です。染め抜き日向までは同じでも、五ツか三ツかが問題です。何故、三ツにするのか、、?第一礼装なのだから、五ツで良いのだ!とならないのが、面白いところです。そこにあるのは、比翼の存在。

比翼とは、重ね着のなごり。留袖の下に白い着物を重ねて着ていたのですが、それを簡略化した、見せかけの重ね着のことで、黒留袖と色留袖の標準装備です。比翼なしの袷の黒留袖はありえませんが、色留袖に関しては比翼なしという選択肢があります。

色留袖の格を順に並べると、
比翼付き五ツ紋
比翼付き三ツ紋
比翼なし三ツ紋
比翼なし一ツ紋
となります。それぞれが適した場面というのが具体的にどうかというと説明が難しいのですが、実際にその細かな格の絶妙な使い方をされる方がいらっしゃいます。フォーマルの場面では、場所の格は同じでも、参加者の格、お立場が違います。そのときの最善の格を紋で表現するという、高度な気遣いです。

第一礼装か準礼装かという境目に存在するグレーゾーンでした。魔除けならぬ、格付目付け批判除けですね。
写真は、全く関係ないけど、今や希少品の絞り巾着です。

つけさげづけこもん

家族に相撲ファンがいるので、大相撲のテレビ中継をよく見ます。今は九州場所。横綱もいないけど、相撲自体は面白いです。観客席はガラガラなのに何故か満員御礼ですが、そんな中、着物姿のお姉様、お嬢様(自分より年下と思える人は、みんなお嬢様です。)が引き立ちます。他の場所よりも、ちゃんとしたお召し物の方が多い様にも見受けられます。博多は博多織の産地、着物意識も高いのでしょうか?先日、綺麗な黄色の稲垣稔次郎さんの小紋をお召しのお嬢様が、とても印象に残りました。ちらりと見えた襦袢も紅白でオシャレでした。

話は変わりますが、着物には解りにくい分類があります。訪問着と付下は区分けがはっきりしませんし、訪問着も付下も礼装の着物という言われ方もしますが、紬の生地のカジュアルな訪問着も付下もあったりします。小紋はカジュアルな着物ですが、付下小紋というのもあります。付下小紋のなかでも、カジュアルな小紋扱いのものもあれば、付下げと同格になるような準礼装になるものもあります。

用語の定義が曖昧であったり、二重の意味があったりするのは、着物が分かりにくと思われてしまう一因でもありますが、じゃあ、分かりやすい様にきっちり分けましょう。というと、そもそも分けるべきなのか?ともいえます。第一礼装だけ決まっていれば、あとは適当に。というアバウトなのが、日本らしいと思います。その適当にというのが面白いのであります。

話は逸れましたが、付下小紋とは付け下げ付けの小紋です。付け下げ付けというのは、1反(いったん)の生地に柄を付けるときに、ここは前身頃、ここは後ろ身頃、ここは袖の前、袖の後と、着物に仕立てる際の場所を決めて、柄をつけていく小紋です。付下でない普通の小紋は1反を通して、同じ柄の繰り返しです。付下小紋では、仕立て上げたときに柄の向きが揃います。

例えば、お花だったら葉があって、茎が伸びて花がありますが、普通の小紋では上下がバラバラです。付下小紋では仕立て上げたときに花が全部上を向いています。生地をよく見ると肩山を境に柄の向きが逆転します。普通の小紋よりも、上等な感じになります。柄によっては、わかりにくものもありますが、より礼装向きの付下っぽくなったりします。

型染めの人間国宝・稲垣稔次郎さんの原画をつかった、小紋は、付下小紋が多いです。写真は、全く関係のない、風呂敷です。厚手の綿織物で着物を持ち運んだりするのに便利で、丈夫です。